後継者にリスクを残さない
事業承継・自社株対策

(1)後継者難で廃業が相次ぐ

 
帝国データバンク「社長交代率調査」(2007年)によると、社長の平均年齢は59.2歳で、社長交代率は3.03%(2006年:3.08%)と6年連続の過去最低となった。とくに、従業員規模に小さい企業の交代が少ない。社長交代率の低迷が続く大きな要因としては、平均寿命の上昇に伴う社長就任期間の長期化と中小零細企業における後継者難問題などが挙げられる。
また、2006年の中小企業白書によれば、2001~2004年の年間平均廃業者29万社のうち、「後継者がいない」のを理由とする廃業は少なくとも約25%に上り、事業承継を理由として、毎年7万社が廃業していると報告している。
また、2007年の中小企業白書2007年版」によれば、「後継者なし」と「未詳」と合計が62.7%も占めている。
中小企業においては、事業承継というより経営承継そのものができないということになる。

 

 

 

(2)余命リスク高まる

一方で、社長引退については、かつては52歳くらいで事業承継を考えたものが、最近では57~58歳に高まっている。60歳近くになって事業承継の準備に入り、67歳でバトンタッチするというケースが最も多い。
以前のように、50歳半ばまでに事業承継の準備に入り、60歳前半で交代するのと違って、60歳を超えてからそれを考えて70歳近くになってバトンタッチするのでは、年齢的にも余命リスクが高まる。そこに危機感をつのらせている経営者は少なくない。

 

(3)中小は同族承継が過半を占める

  事業承継先を後継者ごとに見てみると、小規模企業では、同族継承が53%と半数以上を占め、中規模企業でも41%を占める。別の東京リサーチの調査結果をみても、子息・子女の承継が41.6%、その他家族ガ20.4%と合計60%以上を占めており、後継者難といえども事業承継はまだまだ同族承継となっている。

(出所)中小企業白書(2007年度版)
資料:株式会社帝国データバンク「企業概要データベース」再編加工
(注)1.2006年末時点のデータと2001年末時点のデータを比較し、社長が交代している企業
2.中規模企業とは、中小企業のうち小規模企業を除いたものを指す。

 

 

(4)事業承継の問題は経営権の承継」と「財産権の承継」

 
事業承継問題のひとつは、社長の交代、つまり、「経営権の承継」です。現経営者は大株主であり、社長
任命で絶大な人事権があるといえ、とくにこの問題で支障はないでしょう。しかし、もうひとつの「財産
権の承継」については、現経営者の株式を新社長が所有しなければ、実質的な経営者とは言えません。
とくに中小企業オーナーの場合、個人資産に占める自社株式が3割を超えていますから、この「自社株式
の承継」が最大の問題ということになります。
 
         

中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の内訳 (%)

 

 

(5)「買取資金」から「税負担・遺産分割」など問題山積み

 
自社株式の問題を考えた場合、生前承継の場合、自社株の贈与税・譲渡所得税等の問題と自社株式の買取資金の問題が挙げられ、相続承継の場合は、遺産分割と相続税負担の問題が挙げられ、いずれもカンタンに解決しない問題と言えます。
仮に自社株の評価が高いと、納税問題では納税資金ガ捻出できず、相続人が事業用の土地を売却せざるを得ない事態になった時、会社が買取る資金がないと事業そのものが難しくなったりするケースが想定されます。また、自社株の評価額と他の財産価額とのバランスの相違で遺産分割の争いが起こるケースがあります。
 

 

(6)自社株対策は、集中と分散防止

 
自社株対策は、まず分散した株式を後継者へ集中させることで及び分散防止です。
自社株を後継者に集中し、他への分散を防止をするための施策は、
●生前贈与・・暦年課税制度と相続時清算課税制度の活用による後継者への生前贈与する。
●遺言・・遺留分等民法上の問題に留意し、遺言を活用する。
●後継者や会社による買取り・・後継者自身が他の株主から自社株を買取りする方法と、会社が後継者以外の株主から自社株式を買い取り、後継者の持株比率を高める。
●会社が新株を発行して後継者だけに割り当て、後継者に持株比率を高める。
●金庫株(注1)の活用・・後継者が相続税の納税資金のために、自社株を売却しなければならない時、会社で納税資金を用意する。
●会社法の各種制度の活用・・定款変更による株式の譲渡制限(注2)・相続人に対する売渡請求制度(注3)を導入する。また、議決権制限株式(注4)、拒否権付株式(黄金株)(注5)の種類株式の発行する。
※上記はあくまでも一例ですので、法律や税務の専門家を交えてご検討ください。

 
   

(注1)「金庫株」とは、企業が株式を買い戻して、手元に置くこと。平成13年10月1日に商法が改正され、会社の剰余金分配可能額の範囲内で、目的を問わず、期間・数量の制限を受けずに自社株を保有できるようになった。

(注2)株式の譲渡制限制度を導入する定款変更のためには、株主総会の特殊決議(総株主の人数の半数以上で、かつ、総株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要。

(注3)株式の譲渡制限をしても、相続や合併による取得は適用されない。株式を相続した株主に対してその売渡しを請求するためには、事前に定款変更が必要で、そのためには、株主総会の特殊決議(総株主の人数の半数以上で、かつ、総株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要。また、売渡請求をする場合、その都度、特別決議が必要。

(注4)株主総会での議決権の全部または一部が制限されている株式のこと。後継者には議決権のある株式を、それ以外の相続人にはこの株式を取得させて、後継者に議決権を集中させることが考えられる。

(注5)経営者が、自社株式の大部分を後継者に譲るが、不安が残る、という場合に、経営者が拒否権付株式を保有し、後継者の経営に助言を与えられるようにしておく、といった目的で発行します。

 

 

(7)中小の場合、自社株評価額が高くなりがち

 
自社株式の後継者への集中と分散防止と併せて取引相場のない自社株の場合、評価引き下げが必要である。
中小会社の株価算定は、①同族会社の株式は、「類似業種比準価額方式」または「純資産価額方式」の2つの「併用方式」、②同族株主以外の少数株主で配当を受ける権利のもの株主向けの「配当還元価額方式」・・・です。
 
 

会社規模の区分

  類似業種比準価額方式は、会社の規模別と業種別により異なります。
この方式の場合、上場会社の平均株価である類似業種株価が高くなると、会社の規模や業績に関係なく、中小会社の株価が高くなることになります。また、中小会社の場合、上場会社に比べ、(a)利益に対して配当率(配当比準値)が高くなる、(b)会社規模が小さく、利益がでると利益比準値(利益比準値)が高まる、(c)内部留保が多く、簿価純資産比準値が高くなるなど、高株価算定の要因が多くなります。

 
     

会社規模の区分


  中小会社の場合、相当以前に取得した土地、借地権があることが多く、大企業に比べて信用力が弱く、外部からの資金調達に限界があるため、内部留保を高める経営をしていることが多い。このため、純資産価額方式では、資産に含み益がある場合や内部留保額が多い場合に高株価になってしまいます。
 

 

(8)自社株引き下げ対策の例

  類似業種比準価額方式を考えた場合、以下の主な施策が考えられる。  
  ●「売上」や「従業員」を大きくするのは簡単ではないため、借入金で総資産を大きくして会社の規模を大きくする。
●含み益のある土地を子会社に移して、純資産価額を下げ、簿価純資産比準値を下げる。
●増資による新株を従業員持株会に放出し、純資産額を下げ、簿価純資産比準値を下げる。
●支払配当金を少なくする、もしくは、配当優先による無議決権株式を従業員持株会に譲渡や贈与し、配当比準値を下げる。
●利益を計画的に小さくして、利益比準値を下げる。
●後継者の会社に高収益部門を譲渡する。
●会社分割による不良資産の分離。
●役員の生前退職金を支給する。
・・・などが挙げられよう。
※上記はあくまでも一例ですので、法律や税務の専門家を交えてご検討ください。
 

 

(9)事業承継のための税制措置

 

  計画的な贈与を行うための贈与税の制度「には、暦年課税制度と相続時清算課税制度がり、税制面の支援として、非上場株式に係る10%減額特例、みなし配当課税に関する特例、小規模宅地等の課税の特例があります。
 
             
 

暦年課税制度と相続時清算課税制度の違い

 
             
 

●非上場株式に係る10%減額特例
一定の要件を満たす場合、後継者が相続等により取得した自社株式に対する相続税の課税価額が19%減額される。ただし、後述する「非上場株式に係る相続税の80%納税猶予制度」の創設に伴い、経過措置を講じた上で廃止される。

●みなし配当課税に関する特例

個人株主が非上場株式を発行会社に売却した場合には、会社は自己株式を取得したことになる。個人株主に対しては、通常、売却価額の一部が配当所得され、総合課税の対象となります。所得税・住民税合わせて最高50%の税率により課税される。
しかし、個人株主が相続等により取得した非上場株式を発行会社に売却した場合には、(1)個人が相続等に非上場株式を取得して、相続税を納付すること、(2)相続税の申告期限の翌日から3年間経過日までに、対象となる非上場株式を発行会社に売却すること、の要件を満たす場合、配当所得とされず、譲渡所得として、申告分離課税の対象となります。所得税・住民税合わせて20%の税率により課税。

●小規模宅地等の課税の特例

・特定事業用地等(申告期限まで事業を継続すること等の条件があります)は、400㎡までの評価額の80%が減額されます。また、一定の要件を満たす同族会社に事業を承継する場合も同様の減額があります。
・特定用居住用宅地等(居住を継続する場合等の条件あります)は、240 ㎡までの評価額の80%が減額されます。

 

(10)法改正で事業承継が変わる

平成21年度から事業承継税制が抜本拡充される。
つまり、2009年3月から「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)が施行される。すでに2008年10月から新法の一部、「自社株にかかる相続税の納税猶予制度」が遡及適用されている。

「経営承継円滑化法」が制定されるのは、現行の遺留分の事前放棄の制度の限界があること、また、「遺留分減殺請求」があり、株式の集中ができない場合もあること、及び金融・税制面のからの支援、中小企業で事業承継をスムーズに進める狙いがあります。

遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得て、被相続人の生前に行うことができますが、放棄のメリットのない非後継者にとっては大きな負担となり、結果として、遺留分の放棄を非後継者の了解を得るのが難しくなります。

また、「遺留分減殺請求」の例は以下の通りです。
事業の承継者(後継者)に自社株式を全て生前贈与したり、遺言書で相続させたりして、後継者が経営権を円滑に受け継ぐようにしたつもりでも、民法では、もとの事業者の相続により、その承継者に対する他の相続人から遺留分減殺請求権(民法1031条)を行使されると、これを原則として阻止できず、自社株式にまでも遺留分減殺請求権を行使できます。これは単に金銭的な問題にとどまらず、経営にまで影響することになってしまいます。

さらに、承継者が承継後も事業拡大し、自社株式の価値を高めたとします。その後に相続により遺留分減殺請求権が行使されたときは、生前贈与を受けたときの価値ではなく相続時の価値で評価するため、高額な買取金額となるなど、不合理が生じます。

             

「経営継承円滑化法」の3つのポイント

1、民法の特例
・生前贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度の創設。自社株式等に係る遺留分減殺請求を未然に防止し、事業継続に不可欠な財産の分散を回避できます。
・生前贈与株式の評価額をあらかじめ固定できる制度の創設。後継者の経営努力によって上昇した株式価値は、遺留分算定時に減殺されないため、後継者の経営意欲の阻害要因を排除できます。

2、金融支援措置
相続によって分散した株式・事業用資産の買取資金や納税資金の調達方法として、信用保証協会の保証枠別枠設定や、政府系金融機関による融資制度が整備されます。

3、税制措置
中小企業の後継者が相続または遺贈により取得した自社株式について、その80%に対応する相続税の納税を猶予する制度(取引相場のない株式における「相続税の80%納税猶予制度」)の創設。円滑な事業承継を実現します。

※眼事業承継要件が達成されなければ、納税猶予額に利子税を加えて即時全額納付する必要があることから、相続税の延納措置とも捉える事ができます。

             

<納税猶予の要件>

①対象会社
・取引相場のない株式における「相続税の80%納税猶予制度」の納税制度の対象となるのは、右の表で、ゴム製品製造業、ソフトウェアや旅館のサービス業は政令により、中小企業基本上の中小企業の範囲から拡大しています。
・非上場会社であること、資産会社でないこと、
等に該当することが必要です。

②被相続人・・○会社の代表であったこと。
       ○被相続人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であった場合。に該当することが必要です。

③相続人
・・○会社代表であること。
      ○被相続人と親族であること。
      ○相続人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となる場合。
に該当する必要があります。

④事業継続の要件
・・○5年間、・代表者であること、・雇用の8割以上を維持、・相続した株式を継続保有、に該当する必要があります。

 

特例中小企業者の対象となる企業規模

※中小企業基本法における中小企業+政令により範囲を拡大した業種(グレー部分)

 

21年度の税制改正では、相続税の課税方式の変更も予定されており、事業承継のみならず、相続対策も変わってくるだけに、新制度の理解と対応に注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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